誰のものでもない夜景。
しかし、そこに新しい価値を見出して、
限りないビジネスの可能性を創造した人物がいる。
元編集者の丸々もとおさんである。
日々変わりゆく夜景を追いかける丸々さんに、
夜景にかける思いをうかがった。

【プロフィール】

丸々もとおさん ・ MOTOO MARUMARU
night view journalist

1965年生まれ。立教大学社会学部観光学科卒。情報誌『WEEKLYぴあ』の編集記者を経て、日本で唯一の夜景評論家(登録商標取得済)として活動を開始した。「夜景」の美しさを景観学、色彩心理学などをベースに評論するほか、民俗学、美術史、経済学、文学から宿泊、飲食、その他サービス業まで、他ジャンルとの連動した企画、プロデュースに手腕を発揮する。『東京夜景』シリーズ、『極上夜景HOTELS』など著書多数。2005年9月にはお台場のテレコムセンター内に『NEXT TOKYO BAY』を出店した。夜景カメラマンの丸田あつし氏は実弟。

■ ■ 丸々さんのオフィス
    (東京都中央区)近くの夜景3選 ■


■ ■豊海水産埠頭 ■ ■ ■
(東京港周辺の夜景)
豊海水産埠頭からは東京港周辺の夜景を楽しめる

■ ■勝どき橋 ■ ■ ■
隅田川沿いのファザードから、
勝どき橋ライトアップを望む)
水面にブルーの色がゆらめく勝どき橋

■ ■越中島公園、または永代公園 ■
(月島の高層マンションを望む夜景)
永代公園からは月島のマンション群を望む。

日本でただ一人の夜景評論家、丸々もとおさんの毎日は超多忙である。午後からは打ち合わせ、取材(する側、される側双方)の連続でそれが夜中まで続く。真夜中に帰宅後はメールのチェックや原稿をこなし、就寝は朝。睡眠時間は1日平均3〜4時間という。土日もプライベートもない。 「誰もやったことのない新しい価値を作るとはそういうことです。やれることはギリギリまでやる」日常を、丸々さんは「常に夜景」と表現する。  夜景評論家としての活動範囲は驚くほど多彩だ。雑誌、新聞の連載原稿、本の出版、テレビ・ラジオ出演、ホテルプランやツアーの企画立案、夜景イベントのプロデュース、店舗開発、グッズ販売。観光や町起こしとの連動企画もある。夜景に関するありとあらゆる企画や相談ごとが、一度は必ず丸々さんの元に持ちこまれる。

「今、50案件ぐらい同時進行しています。どれも成果を求められるのでクリアしないといけない」 楽しいけれどプレッシャーもかかる。多忙と重圧。「好き」を仕事にした人の、宿命かもしれない。



東京湾河口近くに架かる、勝どき橋近くのオフィスからは夜景を一望できる。 「ホテルインターコンチネンタル東京ベイの客室の18階あたり、1821号室から見た夜景が好きだったんです。ここを一度視察に来た時にその風景とつながった。この夜景を見てしまったらもう他の夜景には代えられない」

丸々さんはどんな夜景を好むのだろうか。

「都市の夜景には成長感があるんですね。マンションが建って灯の位置が上がってくる。どんどん変化していく夜景は未来を感じさせる。すごく前向きになれるというか、力をもらえるんです。後ろ向きではないんですよね、夜景が。閉じこもったものではなくて成長する都市の息吹。自分ももう一歩、明日もがんばれるような気がします」

日本の夜景に最も執着し、幅広く見つめてきたのが丸々さんだ。

「日本は規制の問題で赤く点滅する航空障害灯の灯がダントツに多く、心臓の鼓動のようです。また、蛍光灯の団らんの灯が日本の特徴です。日本は世界で一番夜祭りが多い。夜をネガティブにとらえるよりは、夜祭りや送り火など、夜に思いを馳せる。日本人と夜のかかわりは秀でていると思います。そういうものが現代において目覚めただけの話ですよね」 東京は高いところというと展望台ぐらいしかないが、地方では家の近くに山がある。地方の人にとっては「夜景に行こう」という言葉が一般的な地域もあるという。

「みんなが日常的に高台から見下ろして夜景を眺めている。老若男女を問わず、そこで会話を楽しんでいます。元来日本人が持っていた“月を愛でる文化”とリンクしていると思うのです」  しかし、潜在的なニーズを掘り起こしたのは、丸々さんが夜景評論という活動を始めた90年代以降であることは間違いない。








夜景評論家 丸々もとおの
スーパー夜景サイト
http://www.superyakei.com



日本夜景遺産
http://www.yakei-isan.jp/
日本各地に埋もれている夜景を再発見、発掘し、新しい価値のもとに紹介することで、観光資源としての夜景の存在を アピールしている。



[夜景]All About
http://allabout.co.jp/travel/nightview




『日本夜景遺産』
丸田あつし・写真 阿部とも・文/丸々もとお・監修/光人社 各900円+税
日本の美しい夜景を自然、施設型、ライトアップなどのカテゴリーに分類して夜景遺産として選定。全国の美夜景101カ所を紹介している。

『夜景の時間ポストカード (Ver.1) 』
『夜景の時間ポストカード (Ver.2) 』
日本夜景遺産事務局編/丸々もとお・監修/ぴあ 1900円+税
日本の美しい夜景を自然、施設型、ライトアップなどのカテゴリーに分類して夜景遺産として選定。全国の美夜景101カ所を紹介している。




「サラリーマン時代は無駄な時間があったが今は全然ない。2足のわらじのほうが楽だった」と丸々さん。

小学6年生から大学3年まで行っていたボーイスカウトは、丸々さんに夜景に目覚めるきっかけをもたらす。ハイキングの帰りに見た大菩薩峠での夜景。「夜の街ってこんなに美しいのか」と感動した。 それからは、夜中に抜け出して自転車で埼玉から荒川のほうまで行き、5分ほど夜景を見てから帰ってきたという。中学までは単独、高校では友人、大学では車を持つようになって友人や彼女と夜景を見に繰り出した。


「夜景が純粋に好きで、好きだから見に行くという、ただそれだけ。恋愛と同じです。好きだから会いに行く」 夜景鑑賞は趣味に過ぎなかった。仕事ではぴあを経て、「どんな雑誌や書籍もこなせるスーパー編集者になりたい」とダイヤモンド社、KKベストセラーズ、リクルートで編集者として活躍した。


最初の転職後、出版系の勉強会で書籍の企画を持ち寄ることになった時、「夜景が好きだったなあ。夜景のガイド本はないからそれを本にしよう」と思いつく。いくつかの出版社でプレゼンを行ない、やっと出版までこぎつけた後は「売る」ことに力を注ぎ、次の出版へとつなげた。それまで存在さえしなかった夜景評論家はこうして生まれたのである。



夜景評論家オンリーの活動を始めて3年半。 「なぜカップルは夜景を見に行くのか不思議に思い、科学的に知りたくなって色彩心理学や光治療などを学び、『東京癒しの夜景』という本を出版。色によって癒され方が違うとわかりました。ただ、それをまとめるのに3年くらいかかった。 その後、民俗学、文学、美術史や観光学など、夜景を学際的に研究したいテーマを数えたら、30テーマにのぼった。30テーマ×3年で90年。



「評論家のなり方などわからなかったのですが、テレビに出ていた夕陽評論家の 油井(昌由樹)さんの存在を知り、“自由に名乗っていいんだ”と思った」

一方、サラリーマン時代から、書籍はレストランバー、ドライブなどテーマを変えながら出版、90年代前半は夜景情報をストック。そのうちに宿泊プランのプロデュース依頼が舞い込むようになる。 「施設に手を加えるのではなくて、施設をどう使ったらお客さんが最適な夜景鑑賞の環境を作れるか」をテーマに、“ベッドのこの横の照明を30度絞り込みましょう”などとアドバイス。 ホテルの客室ごとに異なる夜景の鑑賞ポイントをロケーション、客室タイプの違いに応じてアイディアを細かく提供し、成功した。


情報収集は、夜景評論家として第一人者(といっても一人だが)となった今でもアナログ的だ。 「他人の情報は一切参考にしません。カンみたいなもので全部自分で見つける。そのほうが達成感があります。こっちに行けば確実に見える、というのでは素直に感動できません。文明の利器を利用すれば利用するほど生きている感じがしない」

運転している最中でも夜景が気になり、高速道路を降りることがある。知らない山道へ入り、時には泥にまみれて絶景スポットを探すこともあるという。「一期一会は大切にしたい。また来られるかどうかわからないから見ておきたいんです」 夜景を探すのは、そんなにカッコイイものではないのだ。しかし、どんな状態であっても、どんなにキツくても「見たい」というシンプルな動機が丸々さんを動かしている。夜景の可能性をこれほどまでに広げた功績は大きい。

「アマチュアの人は“オレはこれを知っている”と言いますが、それは自慢でしかない。どう伝えるのかということが一番大切です。自己満足である一方、私は編集者だったので、夜景の美しさをどう伝えたら人は行動するのか、心を動かすのか、そういう視点をずっと大切にしてきました」



各地の展望台活性化、日本夜景遺産(※ウェブ紹介参照)の推進、夜景ナビゲーターの育成や民間資格化への準備など、やりたいことはまだまだたくさんある。

「将来的には夜景を楽しむためのホテルを作りたいと思います。後は夜景観光の活性化。日本には夜景鑑賞というオリジナルの文化があります。日本人は夜景が好きなので外国に行くけれど、海外から夜景を見に来られるお客さんはほとんどいません。ですから、日本の夜景を外国人が見に来るところまで夜景観光の活性化を図りたい。日本は家族の絆を深める民族なんですよ、こんなに素晴らしい夜景が見られるところがたくさんあるんですよ、と外国人に紹介したい。 それで滞在型の外国人のお客さんが増えていろんな街が潤っていく。その流れで夜景を楽しむホテルを作れたらと思います」  光と闇のコントラストがあやなす夜景。今後、丸々さんはどのようにスポットライトをあてるのか、楽しみである。




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